寄港地の翌日は、何の予定も入れずにのんびり過ごそうと思っていたのに、目覚めと同時に火山の噴火を見て、その興奮が鎮まらないうちに、メッシーナ海峡に接近である。 船旅の醍醐味のひとつは、海からでしか見られない光景を見ることだ。何事も見逃したくない欲張りには休んでいる暇がない。イタリア半島とシチリアの間にあるメッシーナ海峡の最短距離は僅か4キロ。海はすっきり晴れ渡っている。 右舷側にシチリア、左舷側にイタリア、11時ころから遠くだった島影が両側から飛鳥Ⅱに接近してきて、どんどん鮮明になってくる。11時50分ころには5.5キロの幅に入り、そこから4キロの幅しかない、海峡で一番狭い部分を通過した。シチリアの砂浜と海岸、立ち並ぶ家々、イタリアの谷間にかかった高架とその上を走る車までが肉眼で手にとるように見える。 12時40分にパイロットが下船するというアナウンスがあり、1時15分までリドデッキでお昼をいただきながら、刻々と変化する光景に見入った。
著者紹介 青木 勝 1944年生まれ。東京工芸大学卒業後、スポーツニッポン新聞東京本社を経てフリーに。70年、日本航空嘱託契約カメラマンとして飛行機を撮りはじめる。航空雑誌、カメラ雑誌などに、飛行機写真を連載、写真展開催などで飛行機の魅力を広め、独自の飛行機写真の確立と発展 に努める。「2000年 世界一周クルーズ」、「2004年 南極・南米ワールドクルーズ」、「2009年 世界一周クルーズ」に乗船。(社)日本写真家協会会員、(社)日本旅行作家協会会員