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雑誌「CRUISE」 2021年夏号掲載-飛鳥Ⅱ新造船-

ついにベールを脱いだ! “飛鳥”を継ぐ新造船
キーマン達が語る舞台裏
「飛鳥Ⅱ」を運航する郵船クルーズが、ついに2025年に就航する新造船の計画を発表した。エコでラグジュアリー、かつ“和のおもてなし”をキーワードにした、世界に類を見ない新造船になりそうだ。この新造船について、建造契約におけるキーマン達に話を聞いた。
構成 = クルーズ編集部

2021年3月31日の朝、そのビッグニュースが飛び込んできた。「飛鳥Ⅱ」を運航する郵船クルーズが、ついに新造船の造船契約を締結したという。新造船の建造はクルーズファンはもとより、クルーズ業界の関係者の間でも長らく待たれていたものだった。

ついにベールを脱いだ新造船は、飛鳥ブランドを継承するにふさわしい、もてなしの心に満ちている。サイズは5万1950トンと、現在の飛鳥Ⅱを少し大きくしたサイズ。乗組員数は約470名と現在の飛鳥Ⅱの約490名とほぼ同数ながら、乗客定員を飛鳥Ⅱの872人から新造船では740人に、約85パーセントに抑えている。すなわち乗客のスペースはさらに広くなり、クルーによるサービスはさらに手厚くなることを意味する。

郵船クルーズの坂本深社長は、サービスコンセプトを「飛鳥ラグジュアリー」とし、今まで飛鳥クルーズが培ってきた和のおもてなしをさらに進化させていきたいとした。

そんな進化が具体的に感じられるのがダイニングだ。船内にはメイン・ダイニングのほか、寿司を含めた和食レストランや、イタリア料理レストラン、肉とワインを楽しめるグリルレストランやカフェなど15カ所以上もの食スポットが登場。ダイニングによっては、好きな時間に食事が楽しめるフリーシーティング制も採り入れる予定だ。

「ウエルネス」すなわち健康をテーマにしているのも新鮮だ。飛鳥Ⅱで人気の露天風呂は新造船にも登場、今度は前方に設置され大海原を進む様子を見ながら入浴できる。ウォーキングできるオープンデッキ、フィットネスセンター、ゴルフシミュレーターなどの施設も。

機能面でも特徴は多い。新造船は中型船としては世界で初めて、液化天然ガス(LNG)、低硫黄燃料、ガスオイルの3種の燃料に対応する。坂本社長は「地球にも配慮して過ごすクルーズは次世代の新たな旅の選択肢となるだろう」と語る。

感染症対策も万全だ。換気に関しては100パーセント外気取り込み方式で排気と吸気を分ける。エレベーターや公共トイレなど、多くの人が利用する場は、非接触で作動するボタンなどを採用する予定だ。

建造はドイツのマイヤーベルフト造船所で行い、2025年就航予定。あと4年、その日が待ち遠しい。

“飛鳥”を継ぐ新造船3つのポイント

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和のおもてなしを感じられる
飛鳥ラグジュアリー

新造船は世界のラグジュアリー客船の中でも稀なほどの広々とした空間を誇る。客室は全室バルコニー付きとなり、飛鳥Ⅱにもあるスイート専用ダイニングなど上質なサービスも継続する。“和のおもてなし”はもちろん健在。船内には日本人に愛される木のぬくもりを取り入れ、日本語によるサービスや四季折々の食材を使った味などを提供する。

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幅広い世代に対応する
モダン&リラックス空間

船内にはリラックスできるスペースを多く設ける予定。Wi-Fiも備え、ワーケーションやロングステイも可能になる。初めて一人用の客室も登場する。一人でも初めてでも慣れ親しんだ人とでも、幅広い世代の乗客が楽しめる客船になりそうだ。ハード面では飛鳥Ⅱより喫水が浅くなり入れる港が増えるため、コースもさらに多彩になるだろう。

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最新テクノロジーを採用
安心のエコシップ

環境に配慮して3種の燃料に対応するほか、日本の客船としては初めて、船体制御装置ダイナミック・ポジショニング・システム(D.P.S)を搭載する。これは錨泊が必要な港でも錨を下さず安全に停船や位置の保持をすることができる装置で、サンゴ礁など海底の環境を傷つけることはない。そのほか脱プラスチックなどサービス面でも環境に配慮する。

唯一無二の客船を目指し受け継ぐところ、進化するところ

この新造船の発表までに5年以上の月日が費やされたという。その紆余曲折と新造船が目指すところを新造船プロジェクトのキーマン達に話を聞いた。

幅広い世代が多様な楽しみを見つけられる

環境へ最大に配慮

機械化された造船所で建造

エムス川沿いにあるマイヤーベルフト造船所。川の水位の関係で、船が建屋を出るのは4月か10月のタイミングしかなく、そこでお目見えとなりそうだ

―発表に至るまでの経緯は。

河村洋執行役員(※以下敬称略) 新造船の話は実は2014年からありました。2015年には契約の一歩手前までいきましたが、事情があり断念。2019年にアンカー・シップ・パートナーズが株主になり、新造船計画が一気に進んで契約に至りました。

―ドイツのマイヤーベルフト造船所に決めた理由を教えてください。

河村 マイヤーベルフトは客船業界ではトップの造船所のひとつです。価格はもちろん重要でしたが、建造実績が豊富であることも決め手でした。最新鋭の客船を造ってきた技術力の高さと経験があります。

遠藤弘之取締役(※以下敬称略) 日本でクルーズする日本籍の客船ですから、日本で造りたいという希望はあり、その方法を模索しましたが、残念ながら実現に至りませんでした。

緻密に組まれた工程表

―サイズ的には現在の「飛鳥Ⅱ」よりやや大きく、一方で乗客定員は抑えていて、よりラグジュアリー感が出るような気がします。

河村 当初から飛鳥Ⅱ以上に乗客定員を増やす気はありませんでした。その中でLNGタンクを備えた上でどれだけの広さを確保できるかということを考えていきました。

遠藤 メンバーそれぞれが希望の施設を盛り込んでいくと、7〜8万トンになりそうでした。それをコンパクトにしていく作業が必要でしたね。

―どんな議論でしたか。

新造船のプロジェクト・オーナーの遠藤弘之取締役。かつてクリスタルクルーズにも携わった

遠藤 露天風呂を造るのか造らないのか、ダイニングのサイズはどのぐらいの広さにするのか。環境に配慮してLNG燃料を使えるようにしたいなど、多岐にわたっていました。

歳森幸恵新造船準備室長(※以下敬称略)エンジンなどの技術的な部分に加え、私達はパブリックを広くしたいという思いがあり……さまざまなせめぎ合いがありました(笑)。

河村 実は当初、LNG燃料が使える客船という話はなかったのですが、先を見据えて方針転換しました。

プロジェクトマネージャーの河村洋執行役員(左)と歳森幸恵新造船準備室長(右)。「完成後、ワールドクルーズをぜひやりたいです…!」

―やはり環境に配慮してとのことでしょうが、一方でLNGを補給できる港は限られています。

河村 実は先日、横浜港と弊社を含む数社でLNG供給体制に関する覚書を交わしました。LNGに加えて陸上から電源を取る設備も備える予定で、これにより停泊中に燃料をたかなくてすみます。ただ日本では客船が入港するターミナルに給電設備が整備されているところはないと理解しています。この新造船が港のエコ化を進めていくひとつの契機になれば幸いです。

―現在の飛鳥Ⅱから受け継ぐところを教えてください。

歳森 飛鳥Ⅱは昨年改装しましたが、そのコンセプトに新造船につながる改装を、というのがありました。露天風呂や大型のLEDなどは改装で盛り込まれ、新造船にも設置します。私達は「飛鳥ラグジュアリー」と呼んでいますが、新造船ではワンアンドオンリーのおもてなしをさらに極めていきたいと思っています。

河村 変わらないものはソフト面、飛鳥流のおもてなしは脈々と受け継いでいきたいと思っています。

打ち合わせはすべてオンラインで実施。背後にあるデッキプランの図なども、データでやりとりしたという

―幅広い世代が楽しめる客船というのをコンセプトにされています。

歳森 個人の自由を叶えられる客船にしたいです。そのためにはデジタルもうまく活用していきたいですね。客室は全室バルコニー付きになり、居住性を高めるためバーエリアにミニシンクやウォークインクローゼットをつける予定です。客室でゆったりする楽しみも増えると思います。

―コロナの影響はいかがですか。

遠藤 交渉がすべてオンラインだったのは大変でしたね。細かいニュアンスが伝わらないこともありました。

河村 一方で時差を利用して効率的に仕事ができた面はあります。契約前はほぼ毎日オンライン・ミーティングをしていたのですが、こちらの夜、先方は朝にミーティングして、こちらは翌日に、先方はその後の日中に課題について考えられました。

―マイヤーベルフトというのはどういう造船所でしょうか。

遠藤 とても近代的で機械化が進んでいて、建屋内ですべての作業ができます。全天候型なので、天気の影響を受けず作業が可能です。

契約書にサインをする坂本深社長。「仕事をしながらの世界一周クルーズも可能にしたい」

―その点、工期の遅れなどの不安は少ないのでしょうか。

遠藤 マイヤーベルフトでも5万トンサイズの客船でLNG燃料対応は初めてなので、そこは時間がかかるかもしれません。それ以外は予定通り進むと思いますね。ただ畳の客室をドイツ人の方が作ろうとすると大変かもしれないですが……!

―この後のスケジュールは。

歳森 2023年までは机上で設計の詳細を詰めていく作業が続きます。2023年11月がスチールカッティングの予定で、2025年はドックを出て試運転となります。

―2025年が楽しみですね。

遠藤 この船で日本のクルーズ文化の未来を切り拓きたい。新しい一面を提案したいと思います。いろいろなお客さまに多様な楽しみを提供できる客船になればと思っています。

資金調達を成し遂げ “地方創生”を目指す

佐々木真一郎専務取締役(右)と井上耕輔マネージングディレクター(左)。同社の受付には飛鳥Ⅱの船体写真なども飾られ、このプロジェクトにかける意気込みが感じられる

今回の新造船契約に当たり、資金調達は重要だ。その役目を担ったのが2019年3月からの株主であるアンカー・シップ・パートナーズ。多くの地方銀行が参画した背景について聞いた。

―アンカー・シップ・パートナーズが郵船クルーズの株主になり、新造船計画が一気に進みました。

佐々木真一郎専務取締役(※以下敬称略)実はその前から新造船の話自体は聞いていました。それが株式取得から具体的に進み、私はドイツでのキックオフミーティングも参加しました。

―地方銀行が参画することになったプロセスを教えてください。

井上耕輔マネージングディレクター(※以下敬称略) 地域に根差した銀行の方々は、その地ならではの良いものを知っています。そして地域経済を発展させること、その地の魅力を発信することに熱心です。港から港を航海する飛鳥クルーズと地方銀行がタッグを組んだら、その相乗効果はとても高いのではというのが出発点でした。そして2019年4月に地方銀行50社に集まって頂き、飛鳥クルーズと地方創生というテーマで勉強会をしたのがプロジェクトの始まりです。

―結果として地方銀行29行を含む30行も参画することになり、プロジェクトとして大成功でした。

佐々木 地方創生をテーマに郵船クルーズと連携できることに対して、大変高い評価をいただきました。それにはこれまで郵船クルーズが築いてきた「飛鳥ブランド」に対する信頼感があったと思います。

佐々木取締役も訪れたマイヤーベルフト造船所の内部。「整然としていたのが印象的でした」

―地方銀行が参画することで、どんなことができ、どんな効果が生まれるのでしょうか。

井上 地方銀行はその地の優れたものをよくご存じで、ネットワークもあります。これまで地方銀行のご紹介で、人間国宝の方の窯元を訪れる寄港地観光ツアーも実施しています。飛鳥Ⅱのお客さまからは、普段行けないところに行き、なかなか会えない方に会えたとご好評いただきました。ほかにも地方銀行のご紹介で地元の酒蔵のお酒を船内に入れたりもしています。地域の工芸品を飛鳥Ⅱを通して紹介する機会もありました。

佐々木 地方銀行の方々は単に逸品だけでなく、その背後にある「ストーリー」をよくご存じです。飛鳥Ⅱのお客さまは目も肥えていらっしゃいますし、ストーリーを重視される方が多い。そうした地域の優れたものを、これからも飛鳥Ⅱを通して紹介していくことができますし、一方で地方銀行の顧客の方々に飛鳥クルーズを紹介することもできる。Win -Winの関係だと感じています。

―コロナの影響はありましたか。

井上 融資を募る締め切りが2020年の3月で、ちょうどクルーズ船のことが大きく報道された時期でした。その後、契約締結まではコロナ禍と被っています。それでもどの銀行も欠けることなく、先を見越してサポートいただいたのは、感謝しかありません。

―プロジェクトに参加されて思うところを教えてください。

佐々木 プロフェッショナルな方々が集中して取り組み、これまでの経験や知見を新造船に注いでいるので、ものすごく良い船になると感じています。われわれはさらに付加価値を高められるように、地方とのネットワークをつなげていければと思っています。


■SHIP DATA

船名未定(郵船クルーズ)
就航年:2025年
総トン数:5万1950トン/乗客定員:約740名
全長:228.9メートル/全幅:29.8メートル
※新造船の写真はすべてイメージ図。掲載内容とともに変更になる可能性があります。


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