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雑誌「CRUISE」 2022年夏号掲載-飛鳥クルーズの新造客船、船出に向けて着々と-

飛鳥クルーズの新造客船、船出に向けて着々と
2025年就航に向けて、飛鳥クルーズの新造船の建造準備が着々と進められている。
本拠地・日本と造船所のあるドイツとの協働も順調だ。キーパーソンにその進捗と現在の思いを聞いた。
文=吉田絵里
2025年就航予定の新造船。約5万2000トンを予定、「飛鳥Ⅱ」(5万444トン)からサイズアップしながらも乗客定員を約85パーセントに抑え、広々した空間を実現する

オンラインをフル活用した新造船プロジェクト 来日時には温泉施設での文化交流も

2021年3月に建造計画が発表された、飛鳥Ⅱに続く新造船。ラグジュアリーかつ環境に配慮した新造船は、実現へ向けて着実に準備が進められている。

そんな中、2022年6月には取締役・専務執行役員だった遠藤弘之氏が、代表取締役社長に就任した。遠藤弘之社長は以前より新造船建造のプロジェクトに携わり、主に財政的な面において実現の道筋を立てる役割を担ってきた。社長に就任してから初のインタビューで、まずその道程について尋ねると「この3年間は新造船のことにかかりきりでした。そんな中、財政的な面の目途を立てられたことは非常に大きかったです。」と振り返った。

2022年6月より代表取締役社長に就任した遠藤弘之氏。不定期船の建造に関わった経験もあり、それが今にいかされているという

「株主であるアンカー・シップ・パートナーズは、30行近くの地方銀行からサポートを結び付けてくれました。その資金調達の方法は僕らにはない斬新な発想で、非常に驚きました。」

資金調達の目途がつき、建造を担うドイツのマイヤー ベルフト造船所との交渉を進める中では、困難も伴った。世界的に新型コロナウイルスの感染が広がっていったのだ。海外との往来に制限があるなかで、日本とドイツとの共同作業は、オンラインをフル活用したものとなったという。

「面と向かって顔を合わせられないため、細かいニュアンスが伝わりにくいという苦労はありました。一方でオンラインならではの良さもありました。日時の調整がつけば毎日のようにミーティングを開催することができたのです。」

そして国際間の往来が徐々に再開される中、2022年5月にはドイツからこの新造船プロジェクトに関わるチーム総勢21人が来日を果たした。初めてのリアルの場での大規模なミーティングに加え、飛鳥Ⅱを実際に訪船して視察したり、また日本郵船歴史博物館を案内して同社の歴史を説明したりしたという。

「それから温泉施設にも案内しました。新造船には露天風呂を設置予定ですが、やはり外国人の方は風呂というと『スパ』や『プール』をイメージするようです。日本人にとっての風呂がどのようなものか理解してもらいたいという狙いがありました。実際に皆さん入られて、とても喜んでいました。」

一堂会しての話し合いの場も設けた。マイヤー ベルフト造船所は多くの新造船建造を手がけるが、これだけ大人数で海外出張するのは珍しいという。

ドイツのマイヤー ベルフト造船所や内装デザイン&コンサルティングを担う英国SMCデザインのメンバーなど総勢21人が来日。飛鳥Ⅱ船内の視察も実施

新造船にはベストな選択を 本気度の高い、環境への配慮

この新造船プロジェクトの中心を担う人物の一人が、新造船準備室の歳森幸恵室長だ。進捗について聞いたところ、現在は新造船の設計を詰めている段階で、そのために実施したふたつの試験について教えてくれた。

「先日実施したのが、ウインドトンネルテストというものです。これは現状の船型デザインを踏襲した模型を作り、さまざまな速さや向きの風をその船体模型に当て、船上で風が強く吹く場所がないかを計測します。また実際に模型の煙突から煙を出し、その煙が滞留する場所がないかも確認します。」

日本語で風洞試験と言い換えられるものだが、これにより安全性を確保するのはもちろん、乗客が不快な思いをする場所がないかも観察する。

「もうひとつは水槽試験と言われるものです。これは水槽の中で実際に船体模型を走らせてみて、計画通りの推進性能が得られているか、操船性は確保されているかなどを確認する試験になります。この試験はこれまでも数回に渡り行われ、その都度、船型やプロペラ形状の改善が図られており、計画値を上回る性能が得られる見込みです。」

新しい客船には大いなる可能性がある。その中からベストなものを選択するために、日々さまざまな調整がなされているのだ。

客室のモデルルーム。新造船建造に当たっては、こうしたモデルルームを製作したりもする

マイヤー ベルフト造船所には、予約して見学できるビジターセンターもあり、造船所の敷地ミニチュア図も展示されている

歳森室長は実際にドイツにも足を運び、造船所の視察やデザインやコンサルティングを担うSMCデザインとの打ち合わせなど、多岐に渡る業務を担っている。

「先日はハンブルク港にある陸電施設(※1)の視察も行いました。環境先進国のドイツでは、着岸中の船舶への陸上電力供給システムが国や州の負担で整備されつつあります。船舶が陸上電力を利用し着岸中に発電機関を止めることで、港周辺の環境保全に貢献できるからです。

日本にはまだ陸上電力を供給できる設備を有する港はありませんが、新造船にはその機能の搭載の話をしており、海外では利用の義務化の動きもあるようですので、世界一周クルーズなどで活用していきたいと思っています。」

(※1)船舶陸上電力供給施設のこと

造船所周辺の街並みは、絵本の世界のように愛らしい。歳森室長は季節の良いときに造船所を訪れるツアーの実施も考えているという

歳森幸恵 新造船準備室長。今まで2度ドイツを訪れ、プロジェクトの進捗管理の責務も担う。「新緑の季節に訪れ、造船所の街・パペンブルグの美しさにも気づきました。」

模型を水槽に入れて、試験を行う様子。多くの人が関わり、複数回にわたってこうした試験が行われる

水槽試験の模型。これを実際に水槽に入れて、プロペラの動きなどを見る

陸電しかり、新造船は環境に配慮した客船となるのは周知のとおりだ。寄港する各港湾事情に対応し多彩な航路を実現するため、LNG(液化天然ガス)に加えて低硫黄燃料、ガスオイル燃料の計3種類の燃料に対応したデュアル・フューエル・エンジンを搭載するのが大きな特徴となっている。

LNG燃料に対応した客船は近年続々と就航しているが、そのほとんどが10万トン超の大型船。中型に分類される飛鳥クルーズの新造船は、同サイズの客船の中でも一歩先をゆく仕様だと言えよう。

先の遠藤社長も、こうした環境への配慮は新造船の設計における重要なテーマのひとつだと語る。

「日本の客船は外国客船に比べて、お風呂などの習慣もあり、水の使用量が多いという側面があります。客船の水は海水をろ過して作っていますが、水を作るためには燃料も必要です。燃料を多く使うということはそれだけ環境に負荷がかかるので、水の使用量は減らしていきたい。ただその方法も、例えば節水型のトイレを採用するなど、お客さまが不便を感じないように行っていきたいと思います。」

マイヤー ベルフト造船所のドック内。巨大な建屋の中で、天候に左右されずに作業が行えるというメリットがある。建造作業は非常にシステマティックに進められる

新造船が目指す環境への配慮は、上辺だけのものではない、本気度が高いものだ。環境への配慮しかり、新造船が目指すものに「本物」というのが重要なキーワードだと遠藤社長は語る。だからこそしばしば社員に対して伝えていることがあるという。

「一番は『本物へのこだわり』を持ってほしいということです。マイヤー ベルフト造船所は多くの客船を建造しているので、コストをカットするノウハウも持っています。けれどすべてコストをカットすればいいかというと、そういうわけではない。例えば手すりでも、木材を使うとコストもかかるし、メンテナンスも必要になってくる。だからといって木材のように見える別の素材を使えばいいかというと、そうではない。一方でチークの天然森は年々減っています。だから環境に配慮して造林した山でのチークを選んでいる場所もあります。そういうところを見極めることは重要で、『飛鳥クルーズはこうあるべき』という確固たる信念を持って、本物にこだわっていきたいと思っています。」

確固たる信念を持って 本物へのこだわりを重視する

実際、飛鳥Ⅱに乗っていると随所に「本物」が感じられる。木製のデッキしかり、船内に飾られた芸術作品しかり。最近では日本工芸会とのコラボレーションを行って、人間国宝の作家などによる伝統工芸作品も船内に展示している。そんな飛鳥ⅡのDNAが新造船にも着実に受け継がれていく。

「飛鳥Ⅱの良さは、新造船にもしっかりと受け継いでいきたいと思っています。一方で新たなダイニングを設けて食の選択肢を増やすなど、新造船ならではの取り組みも盛り込んでいきます。サービス面では、例えば好きな時間に食事がとれるフリーシーティング制も導入できればと考えています。お客さまにクルーズの新たな楽しみをご提供していきたいですね。」と遠藤社長は構想を語ってくれた。

期待の新造船だが、まだ船名は発表されていない。歳森室長は、できれば2022年度内に船名は明らかにしたいと語る。

「2023年の10月までは詳細の設計が続き、2023年11月にスチール・カッティング(※2)、2 024年1月にキール・レイイング(※3)という行事を予定しています。そして2025年初頭にはドックを出て試験航海を行う予定です。マイヤー ベルフト造船所はエムス川の河口から30キロメートルほど内陸部にあります。造船所全体が建屋に覆われており、そこから新造船が川に出てくるところもハイライトのひとつになると期待しています。」

遠藤社長はドイツのマイヤー ベルフト造船所は「200年以上という非常に長い歴史のある造船所で、そこで働く人々は手堅いドイツ人気質にあふれています。だからこそ契約通りの船がきちんとできるだろうという安心感があります。」と評す。

就航は2025年と少し間がある。それまではひたすら楽しみに待ち続けたい。今日も、着実に新造船の計画は進められている。

(※2)建造に必要な鉄鋼を切り出す伝統的なセレモニーで、客船建造の幕開けを祝う
(※3)木造船の時代から続く船舶の建造開始を表すセレモニー。現在の工法では最初の船殻ブロックがドックに置かれる

エムス川沿いの美しい都市パペンブルクにあるマイヤー ベルフト造船所。建屋から新造船がお目見えする日が楽しみだ

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